どうしてお金が足りない?
野沢さんはある日、二宮社長の社長室を訪れ、
「天引き額を減らしてほしい」
と申し入れてきたのです。
今回も、前回同様の給与から3万円を天引きして、
ボーナス時に追加で5万円を返済にあてるという約束になっていました。
以前よりも給与は増えているのに、
どうして払えないのかと二宮社長が聞くと野沢さんは
「ちょっと、生活が厳しくて……」
と言葉を濁すばかりで、はっきりと「何のためにお金が必要なのか」は
話してくれませんでした。
二宮社長は、「他の役員とも話さないといけない」とその場で答えは出さずに、
その日は野沢さんを帰しました。
派手な生活をしている様子はないのに……
その後、野沢さんの上司や同じチームの従業員と話す機会を作り、
さりげなく野沢さんの近状について聞いてみましたが、
とくに問題行動があるような話は出てきませんでした。
ただ一つ、気になったのが「野沢さんは、いつもスポーツ新聞を読んでいて、
無駄話には入ってこない」というある従業員の言葉でした。
二宮さんは、かねてから(もしかしたら野沢さんはギャンブルをしているのでは?)
と思っていたので、そのスポーツ新聞という言葉がやけに気になったのです。
役員の中には「考えすぎではないか?」と言う人もいましたが、
派手な生活をしている様子もない野沢さんが、3万円の天引きさえ厳しくなる理由が
他には見当たらず、二宮さんは会社として野沢さんの素行調査を探偵に依頼することに。
会社帰りと休日の行動調査をしてみたところ、
野沢さんは二宮さんの予測とおり、競馬をしていることが分かりました。
休日には頻繁に競馬場や馬券売り場に出かけ、
朝から最終レースまで1日中そこで過ごしているようでした。
しかも、調査の様子からは、野沢さんは穴狙いのようで、
勝っている様子はほぼ見受けられませんでした。
この結果を受けて、二宮さんは天引きの減額をしないことを決定。
その代りに、野沢さんのことが会社では必要だと思っていること、
責任をもって行動してほしい事、
そして本当に厳しい時には理由をきちんと話して申し出てほしいと伝えました。
野沢さんは会社にギャンブルをしていることを知られたと気づいたのか、
それ以来、野沢さんから天引きの減額をしてほしいという申し出はしてこなくなったそうです。
ギャンブルも趣味として楽しんでいるうちは問題ないと思いますが、
そこに生活費までつぎ込んだり、
借金をしてまでギャンブルをするようになってしまっては問題です。
野沢さんのことを親身に考えてくれる社長を裏切らずに、
仕事だけでなく私生活もまじめに送ってほしいですね。
(2018.08.10)