出来上がった家族のカタチ
私たち家族は、息子と連絡の取れない生活に慣れてしまい「安彦のいない家族のカタチ」ができていました。
私の家から20分程度の場所に安彦の弟夫婦は家を買い、2人の孫は「じいじとばあば」の家にもよく遊びに来てくれる平穏な日々……。
はたから見たら何も問題がない幸せな家族だったと思います。でも私の心の中は、音信不通になっている息子を助けられていないことへの罪悪感におおわれていました。
「お父さんにがんが見つかりました」と留守番電話を入れても折り返しはなく、「安彦、一度話ができないかな?」と夫の今の病状をメッセージしたときも既読はついても無視の状態……。ついに私はある決断を下しました。
病気が悪化する前に会いに来てほしい
私は息子に会いに行くことを決意しました。しかし息子が住んでいるマンションを訪ねても部屋に誰かがいる様子はなくポストも郵便物であふれかえっていました。
(既読はつくのに家には帰っていない?)私は状況がつかめずに混乱し、どうしたらいいのか悩みましたが(病状の良くない夫のお見舞いに、一度でもいいから来てほしい)と強く思い探偵に息子の所在調査を依頼することにしました。
そして調査の結果、息子は住んでいるはずのマンションに住んでいないことが分かったのです。
名義や荷物はそのままでローンも滞りなく払い続けられていましたが、息子自身は、地方で長いこと「住み込み」の仕事をしていました。
そこでは「身寄りがない」ことになっていて、出身地も偽っているようでした。
調査報告書で見る久しぶりの息子の姿は、体系も服の趣味も変わりまるで別人でしたがその姿は確かに息子で間違いありませんでした。
私は息子に「居場所は分かっているので返事がもらえなければ会いに行きます」とメッセージを送りました。(少し強引かな)とも思いましたが、本気で息子に会いたいと思っていることと夫の病状を伝えると、翌日返信がきたのです。
私は(寂しい思いも大変な思いもたくさんしてきたんだろう)と息子のことを考えると涙が止まりませんでした。
息子はまだ、私たちと会う気にはなれないようですが、返事はくれるようになりました。
どうにか一度顔を見せてもらえるように、息子の気持ちによりそいながら、少しずつ「安彦もいる家族のカタチ」にしていこうと思っています。
全てが嫌になったとき「過去を断ち切り別人として人生をやり直そう……」と思う人もいるでしょう。それが偽りの人生ではなく、前向きな新しい人生だったら素晴らしいことですよね。
今回、音信不通だった息子の居場所が分かったことで、連絡が取れるようになりました。親や兄弟、家族は唯一無二の存在です。これから少しずつ距離を縮めて、新しい「家族のカタチ」を作っていけるといいですね。
(2018.10.23)